自由診療と保険診療

自由診療と保険診療〜規制と理想のあいだに立つ自由診療〜

歯科医療において、自由診療とは何か。
それは、周囲の空気に流されることなく、自らの理想を追い求める姿勢に他なりません。
保険診療では実現が難しい最先端の治療、時間をかけた対話やオーダーメイドのケア。
こうした理想を掲げ、日々実践に取り組む歯科医師たちは、時に「富裕層対象の歯科医療」と揶揄されることがあります。

しかし私たちは知っています。その裏側には、深い葛藤と使命感が存在することを。
自由診療に踏み出すとは、保険制度という後ろ盾を離れ、自らの理念と技術によって真っ向から医療を提供することを意味します。

それは、経済的リスクや社会的批判をも引き受ける覚悟に支えられた挑戦です。
彼らが目指すものは、単なる利益ではありません。
「もっとできるはずだ」「もっと丁寧に診たい」「もっと患者さんの人生に寄り添いたい」
—— そんな強い想いが原動力となっています。

一方で、現代社会においては「規制は進歩の敵だ」という声も根強く存在します。
テクノロジー業界の一部では、ピーター・ティールやイーロン・マスクのように、国家や制度を超えて挑戦を推し進める動きが見られます。

しかし、医療はそれとは異なります。
人の命や生活に直結する医療においては、個人の理想だけで推し進めることはできません。
社会全体の安心と信頼を支える「公共性」という視点が不可欠です。
日本の保険診療制度は、誰もが経済的背景にかかわらず一定水準の医療を受けられる仕組みを提供しています。この制度による「規制」は、単に自由を縛るものではなく、社会の公正と安心を支えるための重要な枠組みです。

自由診療は、その外側にある挑戦的な選択肢です。
だからこそ、保険制度の意義を十分に理解し、また、その制度の中で医療を支える歯科医師たちにも敬意を払うべきだと考えます。

保険診療か、自由診療か。
そこに優劣はありません。
あるのは、それぞれの理念と責任、そして果たすべき社会的な役割です。

医療において本当に求められるのは、自由と公共性のバランスを取ること。
理想を掲げる勇気と、社会の中でその理想をどう実現するかという成熟した視点。
その両方を併せ持つことによって、歯科医療は、個人の理想を超えた社会的価値を生み出していくと、私たちは信じています。