村岡秀明先生から季節の葉書が届きました。
笑っているような筆跡の軽妙な文章と入れ歯をモチーフにしたイラストが相まって、村岡先生から季節の葉書を頂く度に、思わず「クスッ」と笑ってしまいます。
村岡先生のイラストの特徴は、アイロニーな感じは全くなく、初代林家三平の落語のようなナンセンスさにあります。しかし今回のイラストは、金属床レンジャーらしき者が予防歯科の象徴の歯ブラシを武器に持ち、「入れ歯大好きの敗者」と自虐的なコピー、実にシュールな仕上がりです。
思えば、村岡先生にお会いしてから25年余りが経っています。当時、歯科界では「補綴を制するは歯科を制す」などと言われ、予防歯科も関心が高まりつつありましたが、まだまだ入れ歯全盛の時代でした。今でこそ私は予防歯科の普及に取り組んでいますが、当時、新参者の私は補綴を入り口にして歯科界へのネットワークを広げていました。同時期に歯周病の勉強会を企画し、日本大学歯学部教授の伊藤公一先生にスピーカーとして何回もセミナーをお願いしましたが、村岡先生の入れ歯セミナーの方が歯科医師の関心度が高かったと記憶しています。
当時の私は医療マーケティングが関心事のいわゆる広告屋に近い存在ですから、売って欲しいと言われた診療科目の価値や社会性などは問うことはありませんでした。それは職責の内に入っていないし、広告屋に倫理など無かったわけです。今、流行の内覧会業者と同類項でした(もう少し真っ当でしたが)。人々の欲求や欲望を読み解き、それに添って医院の広告戦略を考え付随して医院シシテムを構築するのが仕事なわけですから、有権者の歯科医師が関心の低い歯周病や予防では仕事にならなかったわけです。
ですから当時は、入れ歯の大家といわれた歯科医師には、多々セミナーをお願いしていましたので、門前の小僧よろしくデンチャーにはかなり詳しくなり、受講者のサクラとして質問もしたことがあったくらいです。それから約25年経ち、今では予防は歯科医療の基盤となり、私は予防歯科の普及に取り組んでいます。入れ歯のセミナーも約20年前に一切やめて、予防セミナーしか開催しなくなって20年経ちます。全ては約20年前に聞いた熊谷崇先生の講演がきっかけでした。ひょっとして「入れ歯大好きの敗者」のコピーは、裏切り者の私に対する御年70歳になられた村岡先生の20年振りのカウンターパンチなのでしょうか?
イヤイヤそうではないでしょう。村岡先生が日吉歯科診療所に伺い熊谷先生にインタビューする歯科雑誌の企画がありましたが、雑誌掲載後、熊谷先生に村岡先生の印象をうかがったところ「彼はとにかく人柄が素晴らしいから」とお話しされていましたから。