賃金に対して、院長とスタッフの見解は全く違うのが常だ。業種を問わず、払う方は高いと感じ、もらう方は安いと感じるのが、賃金の特性というものだ。特に歯科のようなサービス業は、間接部門を占めるスタッフが多いため、賃金の適正が見えづらい。そのため、スタッフは「安い給与で使われている」という意識が強くなる。このことは、医院の全ての数字を把握している院長とそうではないスタッフでは、見えているものが違うのだから仕方がない。
しかし、このような状態を放置しておいては、医院はいつまで経ってもギスギスして、居心地の良い職場など望むべきもなく、顧客満足など夢の彼方だ。院長は、医院の業績を損益計算書から判断することができるが、スタッフは自分の給与明細とぼんやりとした数字やイメージからしか、自分の給与の適正を判断できない。その上、人は自分の評価はかなり甘くなりがちである。そんなこんなで、医院に対する不信感が募り募って、「院長はベンツを乗り回していながら、ケチだ」なんていう歯科医に対する定冠詞を頂戴することになる。院長は、医院の数字をスタッフに知らしめ、そして自分の給与の適を判断できるように、スタッフ自身の損益計算書を作成させてみることが、必要だ。
①スタッフの売上げ(DH、DAの売上げは医院売上げの貢献度から自己評価)
②売上げ原価(材料や技工代など)
③付加価値(①−②)
④給料手当
⑤法定福利厚生費
⑥その他の経費(スタッフ数で割る)
⑦経常利益 ③ー(④+⑤+⑥)
⑧労働分配率 ⑦×40%
①〜⑦でスタッフ個々の損益計算をし、⑧で労働分配率を出し、自分の賃金が医院経営に対して黒字か赤字か認識させることから、スタッフに経営参加意識が芽生え、自らの仕事をプロ化していくのだ。
院長のウデがいくら良くても、はやりの真っ白な内装にしてみても、スタッフの賃金に対するわだかまりをなくし、経営意識に目覚めたスタッフを増やしていかない限り、医院は成長しない。歯科医院は正社員率10%のユニクロ的経営ではなく、80%のZARAを目指すべきである。