歯科医のモラル・ハザード

「新潟は桜も咲き始め、やっと春が来ました」と、昨日コンサル先の歯科医からメールをいただく。前後して『道玄坂・ユニクロメガストア』など商業施設のリーシングをしているO氏から電話が入り、メール元の新潟の歯科医のお父様と同窓であることがわかって、発破をかけられる。今、新潟へ向かう車中、十日町のあたりか、残雪に西日が反射して車窓からの景色がやけに眩しい。これから打ち合わせだが、昨日の偶然にいつになく気持ちが高ぶる。

この「高ぶる気持ち」を、多くの歯科医にも体験してもらいたい。サラリーマンでは感じることができない、雇われないで生きる緊張感。しかし、最近は開業する歯科医のモラル・ハザードが大きくなった。ひとつは歯科医院の事業性など考慮されることはなく、担保に対しての貸し付けでしかない金融機関の姿勢。そして歯科医自身が内包している独立に対するリスクヘッジだ。リスクヘッジはとても大切だが、オーナーシップに欠かせない野性の欠如にも通じる。

いつまでも開業予備軍でいることは、歯科医として楽な生き方だ。なんの責任もないし、臨床や経営へのリテラシーが増えることで、歯科医として成長している気分になれる。しかし、どこかの時点で今までの学びを生かすステージにいかなければならないのが、多くの歯科医の宿命だ。

経済情勢、歯科医師過剰、人口減少、リスクは山ほどある。多くの開業予備軍の歯科医が、状況が悪いことを理由にスタートを切れないでいる。しかし、その本質は、外部状況にはない、歯科医自身が持つ独立に対する「恐れ」に他ならない。

100%でなくても構わない。生まれてこの方、どの局面においても完璧な状況などあったであろうか。恐れで自分を止めることで、完璧な状況が揃うことはない。永遠の開業予備軍にならないために、まず第一歩を踏み出してみることだ。

きっと、「やっと春が来ました」と言える時が来る。