ドアノブ•クエッションという言葉がある。初診患者が最初の診察と会話を終えて、医者の説明が理解できずに帰り際ドアノブのところで立ち止まり、先生、私は「○○○」でないですよねと、不安げに訪ねる様を指していう。誰しも経験していると思うが、医者の診断を受けて、はやりの「風邪」を「感冒」などと言われると、何かタチの悪い病気にかかったのかと思う時さえある。さすがに歯科の場合は、専門用語の羅列で深刻な気持ちにはならないであろううが、重い気持ちには変わりない。
私が経験した例で、若い歯科医師が、患者に対してスタディーグループで使いまわされる「予知性」「侵襲的」「審美性」「進行性」「不可逆性」などの言葉を連発して患者にカウンセリングをしていたが、患者の表情を見ると、いかにも不思議そうな顔をしながら、最後に「良くわかりませんが、保険でやってください」で終わった。こんな空しい思いをしないためにも、パソコンに入力する文字が正しく変換されない専門用語は、患者には通じないと思い対話するべきである。
以前、コピーライターの糸井重里氏が、「この香水はウンコのような香りはしない、すばらしい香りです」という文書があったら、論理的にはこの香水はとてもすばらしい香りと伝えているのは理解できても、生理的に「ウンコのような」ばかりが目や耳に入ってきて悪いイメージしか残らないでしょうと、話していた。歯科医師の専門用語の連発もこれに近いものがあり、平易な言葉で話さなければ、意図するQOLやホスピタリティーの向上も生理的に伝わりづらくなる。
歯科医師は文書を書くとき、言葉を発するとき、「意味で考え、生理でチェックする」ことが
大切である。