コンサルタントにご用心!2
集患対策の見せかけの経営効果にだまされないために

歯科医師が歯科コンサルタントに求めているのは、結局のところ何をすれば医院経営の業績が上がるのだろうか、ということにつきると思います。
そのために歯科医師は医療者でありながらビジネス書を読みあさったり、経営セミナーに参加したりするわけです。

ところがです。歯科医師の期待に反して、歯科業界に進出しているコンサルタントやホームページ業者の主張している「効果」は、彼らが強調しているほどにはたいしたものではありません。それどころか、場合によってはその方策や戦略は、本来業績や中期業績には悪影響をもたらすのに、あたかも良い効果があるように見えているだけのことすらあります。

念のために、歯科コンサルタントやホームページ業者が意図して歯科医師をだまそうとしている、といっているわけではありません。実は当の本人たちですら、そんなことに気づいていない可能性があるのです。つまり単に勉強不足で、思慮不足な場合が多いのです。そうでなければ、たとえば「6ヶ月で業績が120%アップ」などといった誇大妄想なキャッチを平気で並べたてることができるはずはありません。

そうはいっても、「ある経営手法を導入した予防型歯科医院と、導入していない保険診療をおこなっている予防型歯科医院を比較すると、年間売上げが120%も違った」などというある歯科コンサルタントのホームページのコピーを見たら、その手法がわかるDVDを導入したくなるかもしれません。

あるいは、あるホームページ業者が推奨するSEO対策の効果を見せられて、グラフの片方の軸には複数の歯科医院の業績を、もう片方の軸にはそれらの歯科医院がとった方法を示して両者の関係を図示することで、そのSEO対策はいかに効果があったかとわかるイントロダクションには、思わず飛びつきたくなる気持ちもわかります。

はたまた、歯科業界トップクラスの歯科医院がどういう先進的な取りくみをして高い業績を上げているかベンチマーク調査をして、その取りくみをグループ学習するセミナーにも参加したくなるはずです。

このような経営効果分析の結果は、データらしき数字を見せられることも多いだけに、一見すると説得力があります。しかし、歯科医師の中には「ほんとうにそうなのだろうか、なんだか眉唾だな」と疑った経験もあるのではないでしょうか。実は、そんな直感はまちがっていないことがほとんどです。

話は横道にそれますが、大学で産業組織論を教えている友人からの、
「うさん臭い経営セミナーが散見される歯科業界にあって、本当に歯科医師はその内容を了として受講しているのか?歯科医師はその内容ではなく、セミナー講師から誘導テクニックや話術を学びたいだけではないのか」という言葉さえ耳にします。

そのために、歯科医師が経営効果に関する誤った情報をうのみにしないためにはどうすればいいのかを考えてみます。ここでは、歯科コンサルがよく提案する経営戦略や方策を例にして、その意味するところを解説しながら、歯科医師が「見せかけの効果」にだまされないための考えを示してみます。その思考回路こそが医院経営の基本にもなりますから、枝葉末節に拘らずおおざっぱに書きすすめてみます。

それでは先に挙げた予防型歯科医院の120%収益率向上を俎上にあげて説明してみます。

「ある経営手法を導入した予防型歯科医院と、導入していない保険診療をおこなっている予防型歯科医院を比較すると年間売上げが120%も違った」

たとえば「ある経営手法」を「リコール手法α」と仮定します。「リコール手法α」を採択している歯科医院のサンプルを集めます。仮に100医院のサンプルに対して「リコール手法α」の実施度合いと利益率のデータを収集します。さらに「リコール手法α」以外にも影響を及ぼしそうな要因である
・医院の規模
・医院の開設年数
・患者の年齢層
・歯科衛生士数
・地域の特徴
・景気動向
などのデータを収集します。そして「リコール手法α」が歯科医院の収益率に与える影響を回帰分析し統計的に検証するのが従来の経営学的なアプローチです。

しかし、多くの予防歯科経営セミナーでは、ベンチマークにする優良なサンプル(予防型歯科医院)が少ないために、収益に影響を与える要因の洗いだしはできないケースがほとんどです。ですから「リコール手法α」のような経営手法が、幅広く予防歯科医院に当てはまるかどうか回帰分析ができていないのです。したがって経営学的に「リコール手法α」は収益率に影響を与えたかの判断できないのが実際です。そのためこの手のセミナーは、マネジメントサイエンスからは程遠く、ベンチマークとなる予防型歯科医院を範にするセミナー参加歯科医院の営業コンテストのようになる傾向があります。

さらに近年の経営学では、回帰分析による効果検証からさらに進み、そもそも予防型歯科医院は「リコール手法α」を採択することになぜなったのか、その意思決定に影響を及ぼす要因が収益率を劇的に向上させた真の要因ではないかと考えられています。経営学では「内生性の問題」といいます。どういうことかと言えば、歯科衛生士の採用が難しいために、その予算を優秀な受付スタッフを採用するために使い、力量の高い受付スタッフが雇用できました。その受付スタッフが「リコール手法α」を実施したところ、収益が劇的に向上したとします。そうなると収益が向上した因果関係に「リコール手法α」は弱い影響しか及ぼしていないことになります。収益が向上した要素の多くは「優秀な受付スタッフの雇用」ということになるのです。(図1)こんなことは、歯科医院経営を数年していれば、「そういえばあれは結果オーライだった」と思い当たる節はあるはずです。ですから「コンサルタントにご用心!」、自分の直感を信じようと声を大にしているわけです。

【図1】

さらに、今や当たり前に使われている「ビッグデータ」や「IoT」など、さまざまなデータを集患に活用して医院経営を加速させようとする動きをPRしているホームページ業者もいますが、そんな「ネット集患対策は厳重にご用心!」です。ホームページ業者も生活者の日常生活の関連データなどの入手コストが下がり、より歯科医院サイドに立った施策の検討が可能になっていることは確かです。しかし、データアナリストと言われる、データ調査 / クレンジング / 変換 / モデリング/ 分析 / 有用な施策の導出 ができる人材は現在の日本では希少で、ニッチな歯科業界にそういった人材がいるとは考えにくいのです。仮にそんなデータアナリストが、歯科医院のネットマーケティングに関与したとすると、そのコスト負担をできるほど収益が高い医院は日本にはほとんど存在しないため、本末転倒な結果になるはずです。

現に歯科ホームページ業者は統計学的に正しい広告効果測定ができているかどうか怪しいのが実情です。統計学では(疫学でも)交絡因子による影響と呼ばれていますが、歯科ホームページ業者は、このことを理解しているようすがないのです。(図2)

【図2】

図2を例に説明します。月間アクセス数が500の歯科医院サイトに業者XがSEO対策をすると6ヶ月で月間アクセス数が2,500になるとの説明があったとします。この場合、差分の2,000は業者Xの施作による純粋な効果として対価が設定されていることが通例です。

しかし差分の2,000は、もしかすると、3~4月の転入転出の引越しシーズンと入学入社の時期で歯科検診に対する生活者のニーズが高まっているトレンドの影響かもしれません。特にアクセス数の増減は、視認性・視界性といった立地要因と人口数に負うところが多いというのが私の認識です。SEO対策においてはトレンド要因・人口・立地要因が「交絡因子」になり、エリアマーケティングをしていないホームページ業者では効果的なSEO対策は難しいのではないかというのが私の見解です。

毎日のように送られてくるホームページ業者からのFAX・DM、ネットを開けばページ上部を占拠する歯科コンサルのリスティング広告、これらのほとんどは「内生性の問題」や「交絡因子」を顧慮しない「見せかけの効果」を誇示したものです。現代の経営学では、過去の統計分析の結果をさらに統計的に総括する手法をとり、「見せかけの効果」を排除していきます。その結果、ある法則が一般に広く当てはまるかどうか検証しています。真摯な予防型歯科医院が、何百、何千、何万という群の個人口腔データを集め統計分析して臨床に落とし込むのと同じです。その一方で、そんなことは気にもかけずに「統計分析がなんぼのもんじゃい」とばかりに「見せかけの効果」をネットでPRする者が儲け上手なのは歯科もコンサルも同じです。令和になってもコンサルタントにはご用心!です。