平成歯科セミナー考

参加者の90%が満足する歯科フィロソフィーセミナーとは

インターネット上で露出するセミナー会場でのVサインポーズの歯科医師の姿を、「あれって、いったいなんなの」とBS-TBSのディレクターに聞かれました。軽い冗談のつもりで、「あれね、Vは歯を抜く時のペンチで、歯医者が感激した時にとるポーズ」と返すと、「歯医者って未だ歯を抜くのが生業なんだ」と思わぬ展開になり慌てました。

Vサインポーズの露出も、平成の歯科セミナーがワークショップ形式で行われることが多かったことも一因と思います。受講者が自ら参加・体験し、各医院との相互作用の中で学びあう形式には、異論はありません。しかし、です。この手のセミナーのベースはビジネス書「もどき」で、そのほとんどは1930年代のアメリカのビジネス書『Think and Grow Rich』がタネ本になっており、金持ちになる方法を説いています。この本のタイトルは胡散臭い感じがしますが、ビジネス書としては良書と言えます。この本は、日本の著名なビジネス書作家たちのほとんどが引用しまくっているのですが、そこからさらに歯科コンサルタントたちがパクリ、歯科セミナーのフレームになっています。

例えば、私が『Think and Grow Rich』の一部をフレーム化すると、

  1. 実現したいと思う願望を明確にすること
  2. 願望を達成するためのトレードオフを決めること
  3. 願望を達成するための期限を決めること
  4. 詳細な計画を立てすぐに行動に移すこと
  5. 以上の具体的な願望・代償・期限・計画を紙に詳しく書くこと
  6. 紙に書いた宣言を声に出して毎日読み、自分に信じ込ませること

こんな感じになります。

「半期で黒字経営に転換するには」、「予防歯科を根付かせるためには」などとお題を変えながら、1~6の項目に沿って論理展開していくと、歯科医師は、一応は論理立て問題解決の方法を知ることができ、わかった気になりVサインポーズが飛び出すという結果になります。知ることと自ら考えて出来ることは全く次元が違うことに気がつかず、ビジネス書「もどき」セミナーにはまっていき、熱に浮かされたようにはしゃぐ画像がインターネット上に氾濫し、歯科医師の幼稚化を世間に晒すことになります。

少なくとも私にとって彼らは、ビジネス書「もどき」のセミナーは「成功」にはまったく役に立たないという定説さえも気にすることもなく、「だれでも」などということは、まっとうな大人が考えればウソに決まっていることを顧みないこと自体が、異次元な存在です。さらに、歯科医師にとっては「経済的成功」だけが人生の中心的目標になりえず、あくまでも付随的結果にすぎないとするべきことを、あからさまに人生最大唯一の目標とするのは、恥知らずな特異な医療人のすることだからです。そして、Vサイン歯科医師に対して何よりも危惧することは、「願望」や「成功」の元になる基本的な人間性と医療観が、どれほど歪んでいるのかということです。

そんな現状に一石を投じたのが『若い歯科医師のためのプレ・オーラルフィジシャン・セミナー(=Pre OP)』です。このセミナーは、90%の受講者が満足と回答しています。

私がPre OPを支持するのは、このセミナーの講師陣や集まる歯科医師が、世の中に生存している生物として、ただ食べて、眠って、死んでいくのではなく、世の中に貢献するためのフィロソフィーの価値を知っているからです。目先の願望に右往左往する歯科医師とは対局の価値観を持っています。そして、社会に貢献するためには、何か新しい価値を生み出し、社会を良くしていかなければなりませんが、歯科界に染まりきることなく新しいコンセプトを生み出し続けることをレゾンデートルにしていることを、評価せずにはいられません。
なぜなら、彼らは経済的成功だけを目指すならば、簡単に成し遂げる力量を持った歯科医師にも拘らず、そこを第一義としていないからです。そのため、社会の大きな枠組みを知る大手企業から歯科の本質を求める歯科大生・若手歯科医師まで、Pre OP歯科医師に対する評価は非常に高く、一般的歯科の社会評価とは雲泥の差があります。

Pre OPセミナー受講者の評価

2018年6月17日開催時アンケート結果より

そして、歯科医師としての時間は有限ですから、時間が潰えた後もいかにして自分たちが生み出した価値を社会や歯科界に残すかというところまで含めて考えています。例えば、一定レベルの歯科医師の臨床データをきちんと記録・統合・伝承することで、社会や歯科界の未来を照らし続けられるかもしれないことを本気で考え、歯科界の枠を超え企業に働きかけたりしているのです。この機運を次の時代に繋げるためには、技術を磨くことや経済的成功を図ること以上に、社会的価値の高いアイデアをつくり、どのようにして伝え残していくかということを考える歯科医師を、私たちが評価し、支持し続ける了見を持たなければなりません。

こういうことを書くと、「なに絵空事を」と言われますが、それ自体、すでに終わっている歯科医師の反応です。本当に何かを創造したい、何かに貢献したいと思っている若い歯科医師が、あなたのような歯科医師の周りには現れないだけで、実際は意外と多いのです。彼らを社会と大きく繋がり評価される歯科医師にすることが、平成年間に下がり続けた歯科の社会評価を上げることに繋がるはずです。

ここで冗長な説明をするよりも、先日東京で行われたPre OPセミナーを受講した若い歯科医師の目と身なりを見てもらえれば、歯科界に未来を感じるはずです。
このような若い歯科医師の目を見て感じたことは、彼らの心の中にはPre OPセミナーの内容がもともと宿っていたということです。人が何かを本当に理解したとき、人は無意識に「わかった」と過去形で表現します。こうした行為からも人が理解するべきことは、すでに自分の内に用意されていることがわかります。若い歯科医師は「わかった」だけではなく、そこから「自分が変わること」をPre OPセミナーに求めているのです。それが真剣な目線の理由ではないでしょうか。