むし歯0から1の価値を生み出す

デフレからの脱却を謳うアベノミクスから4年、雇用指標は改善傾向にあるものの依然として消費拡大に繋がる気配がありません。総務省の資料を見ると、食料品や衣料品などの個人消費が停滞し、モノが売れないデフレ状況に変化はありません。

歯科はどうかと言えば、国民総医療費に対する歯科医療費の割合は、平成28年は前年を下回り、平成12年以降の横ばいトレンドが続いています。生活の基本である食品と衣料の消費が低下する中、とりわけ国民医療費に含まれない自由診療に活路を見出すことは、下りのエスカレターを駆け上がる程度の運動神経と体力が必要になってきます。

それでも、歯科医療費の総枠拡大が見込めないために、個々の歯科医院が自由診療に突破口を見出さざるを得ません。このような状況を反映して、歯科医院では「顧客満足」というスローガンを呪文のように唱え、「ネット予約」と「自費の安売り」が織りなす“量”の拡大の狂想曲が響きわたっているように感じます。

どうでしょうか、「ユニクロ栄えて国滅ぶ」という論考がありましたが、デフレや歯科医院の過剰をエクスキューズにして、「便利さ」や「安さ」ばかりから顧客満足を追求すれば、歯科医院はますます劣化していくように思います。

本来顧客満足度を高めるためには、徹底的に生活者の側に立ち“質”を追求する必要があります。簡単そうですが、これほど難しいことはありません。数多の理由の一つとして、この20年余りで口腔内の状態は向上し、12歳児のむし歯は1歯を切り、これから先に生活者が歯科医院に何を欲しているのかがわかっていないことが挙げられます。

しかし、確実なことは歯科医院も社会の中に存在している限り、顧客満足の在り方が量から質への変化が訪れていることです。これは感覚的な言い方ですが、歯科の仕事は1本のむし歯治療を膨らませて10の仕事を作ることから、むし歯0から1の価値を生み出すことに変わってきているのです。

人は人が集まる様子を見て集まってきます。「便利さ」や「安さ」に満足を求める人の集まりには同じような人が集まってきます。健康な人の周りには生活の“質”を大切にする健康感の高い人が集まってきます。感情は目に見えませんが、健康感の高い人が集まる歯科医院は、健康な人と穏やかに繋がり、人々に健康の連鎖を促し、「便利さ」や「安さ」がなくとも社会と繋がっていくように思います。

現在、歯科には穏やかな淘汰が起こっています。淘汰の時代、歯科医院はむし歯0から1の価値を生み出す仕事をするべきではないかと思います。