本物と偽物。 その違いなんて、誰が決めるんだろう。
「本物は素晴らしい」と言いながら、手が伸びるのはスーパーのカニカマ。
気づけば、どこでも幅を利かせてる。
「味、似てるよね」って。
いやいや、似てる“だけ”なんだけどね。
「え、でもウマくない?」
「……うん、うまい(泣)」
でもまあ、そんな時代だ。
努力と中身より、パッケージとコスパ。
中身の詰まったカニは高いし、食べにくい、手も汚れる。
だから出番は激減。
一方カニカマは、取り出しやすくて、誰にでも好かれるよう設計されていて、
しかも「カニに似せてます♡」と謙虚なフリも完璧。
カニカマは常に考えている。
「あの人に近づきたい」「本物になりたい」ってね。
身を細くしてまで、赤く着色されてまで、カニになろうと必死。
でも肝心のカニはというと―― どこ吹く風で、
黙って湯にくぐらされ、殻ごとドヤ顔で鎮座している。
カニは、カニカマになろうなんて1ミリも思っちゃいない。
そりゃそうだ。カニだもの。
自分が“本物”であることに、疑いすらないんだから。
でも…なんということだろう。 その“本物”たるカニよりも、
“偽物”のカニカマのほうが人気を博してしまうことがある。
大量生産され、均一化され、スーパーで手軽に買える、あのカニカマが。
――あぁ、なんて理不尽。なんて無情。
世の中が求めているのは、もはや“本物”じゃないのかもしれない。
“それっぽくて、わかりやすくて、消費しやすいもの”。
これは食卓の話?
いや、たとえば医療現場でも、教育でも、広告業界でも――
あらゆる場面で見かける光景だ。
歯科業界のセミナーも然り。
本物の臨床家――つまり“カニ”たちは、多くを語らない。
プライドあるし、診療第一だし、そもそもSNSでバズるテンションじゃない。
でも、“それっぽいことを話すカニカマ”は違う。
喋る。映える。拡散される。
「成功しました」「自費が上がりました」「患者が感動しました」
とにかく見せる。魅せる。押し出す。
そう、“カニカマ系歯科医師”である。
講演会はキラキラ、パワポはグラフとキーワードで満載。
「予防の時代!」「MTMが臨床を変える!」 語られるのは、
どこかで聞いたような美しい言葉。 その構図、用語、ストーリー――
……あれ?これ、レジェンドの資料とそっくりじゃない?
そう、彼らは本物を「再現」している。
しかも、本人よりも“売れる”かたちで。
手軽に消費できるように、味も食感もチューニングして、
“カニカマのMTM”として提供しているのだ。
参加者は「なるほど!予防ってこうやるんですね!」と満足げにうなずく。
でもそれ、レジェンドが40年かけて育てたコンセプトを、
3時間で「消化しやすく加工」しただけ。
まるでカニの出汁を1ミリも使っていないのに「カニ風味」と書かれたスナックのように。
そして、その“加工”で稼いでいる。
講演料、オンラインサロン、教育プログラム、教材販売―― 全部、
「本物の味」を使って、でも中身は薄いまま、しっかりマネタイズされていく。
日本の得意技、加工業は、歯科でも健在だ。
いや、商売するなとは言わない。
でもせめて、カニのフリをして「俺が考えた」みたいな顔をするのはやめてくれ。
カニカマのように「カニに似せてます♡」と謙虚な姿勢を見せて欲しい。
レジェンドたちが、山のようなエビデンスと失敗の上に築いた知識を、
見栄え良くスライドに詰め込んで、「〇〇〇〇」と名前をつけて売る。
それって、もはや“再現”じゃなく、“盗用”では?
そして、講演受講者は“カニ”じゃなく、“カニカマ”に殺到する。
だってカニカマの方が、話がわかりやすいから。
面白いから。経営的に使いやすいから。
でも、その講演を聞いて、真面目な若手歯科医師が
「よし、自分もカニになるぞ!」と意気込んだとしたら……それが問題だ。
なぜなら、会場の8割が“カニカマをカニだと信じて帰る”から。
つまり、“偽物が本物のフリをする”だけじゃなく、
“偽物が本物として扱われる”時代になってしまっている。
誰も嘘をついていないのに、全体として真実からズレていく。
……これ、ちょっと怖くない?
だけど、業界はカニカマで潤う。
講演ビジネス、歯科雑誌、SNSバズ。ぜんぶカニカマが得意とする分野だ。
じゃあカニはどうするか? 静かに黙って、今日も臨床。
脚をちぎられながらも、黙って湯に浸かる。
わかる人にだけ、わかればいい。
そんな潔さすら感じるけれど―― でも、
その“わかる人”がどんどん減っているとしたら?
それは、ちょっと笑えない話かもしれない。